SLAMとは

1. SLAMの概要

現在、あらゆる分野で位置推定技術が利用されています。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術は、これらの位置推定技術と、既存の地図情報を互いにフィードバックする技術です。センサーから取得した位置情報や周辺の空間情報を基に、地図作成と自己位置推定を行いながら、マッピングを積み上げていく事で、高精度な地図情報を取得することができます。

SLAMスキャナーの例(SATLAB社・Cygnus)
SLAMスキャナーの例(SATLAB社・Cygnus)

2. SLAMの原理

まず、自己位置および周辺地図情報の把握を行わなければなりません。これらの情報を取得するためのセンサー技術には、以下の様なものが挙げられます。

2-1. RTK-GNSS

GNSS(GPS)衛星から発信される測位信号を受信して、干渉測位の手法で2-3cm精度で位置情報を取得することができます。

2-2. IMU

IMUはXYZ各軸の加速度と角速度を検出するセンサーです。加速度の2回積分は座標、角速度の1回積分は角度となりますので、センサーからの出力を演算処理することで、センサーの移動方向や速度、移動量を把握することが可能です。

2-3. ステレオカメラ

人間の両眼の様に、2つのカメラからの画像によって対象までの距離や立体的な形状を捉えることができます。対称が移動した場合、これまで積み上げてきた地図情報の特徴点までの距離が変化しますので、その相違点を利用して物体の相対位置を推測することも可能です。

2-4. LiDAR

光の飛行時間(ToF)を利用して対象までの距離を検出するセンサーです。パルス状に発光するレーザーを360°回転させることで、周辺の地図情報を取得します。カメラやレーダーなどの他のセンサーと比較すると、高い精度で形状や距離を計測できます。

2-5. ミリ波レーダー

LiDARはレーザー光を使用しますが、ミリ波レーダーは電波を使用して対象までの距離や形状を把握します。精度はLiDARに劣りますが、夜間や悪天候時でも使用が可能です。


これらのセンサーを使用して、自己位置情報や周辺の地図情報を取得します。取得した情報と既存の地図情報を基に、地図作成と自己位置推定を行いながらマッピングを積み上げていきます。 具体的には:

  1. Aの位置にスキャナーがあり、周辺の情報をセンサーで取得したとします。得られる地図は地図①です。
  2. スキャナーがBに移動し、周辺の情報をセンサーで取得します。(地図②)
  3. 移動量を取得するセンサーによりBの位置が分かっているので、そこを中心にしてセンサーで得た情報を書き加えていきます。(地図①+②)
  4. 以後、同じ処理の繰り返しです。移動した分だけ、地図上の自己位置をずらしながら、センサーが得た地図情報を移動後の位置を中心に書き加えていきます。
SLAMの原理
SLAMの原理

原理は単純なのですが、実際は理論通りにうまくいきません。現実のデータには「誤差」が含まれているからです。前述した各種センサーの性能も重要ですが、誤差を含んだブレのある情報からあらゆる手法を駆使してそれらしく自己位置を推定していく・・・といった、ソフトウェア技術もSLAMの重要な「キモ」といえるでしょう。

3. SLAMの用途

3-1. 測量用途

3次元のモデリングでSLAMを利用することができます。3次元モデルを取得する方法としては、フォトグラメトリ(対象を撮影した多数の写真を後処理によってモデル化)や、地上型レーザースキャナー(三脚などに固定した機器からレーザーを照射して空間情報を計測する機器)による方法があります。

フォトグラメトリは、撮影時の留意点や後処理ソフトウェアのパラメータ調整などのノウハウが必要となります。地上型レーザースキャナーは、広い範囲を計測する場合に再設置を繰り返して、後処理でモデルを結合させる必要があります。

SLAMスキャナーの場合は、現場内を歩いて計測するだけで3次元モデルを取得することが可能になります。建設・土木現場のモデリングにかかる時間と労力を大幅に改善することができます。

SLAMスキャナーによって取得したモデル(長岡技術科学大学)
SLAMスキャナーによって取得したモデル(長岡技術科学大学)

3-2. 自動運転やドローン

SLAM技術により、自分の現在位置や周辺の状況を把握することができ、これからどのように行動すればいいのかを判断して運転するための重要な情報を取得できるようになります。

さらに、SLAMの場合地図情報を新たに構築しながら進むことができますので、新たに構築した地図情報を基に自身と周辺にある障害物やランドマークなどとの正確な距離を算出し、その情報から障害物を回避するなど次にとる行動を判断することができます。

3-3. 無人搬送車やロボット

搬送車やロボットは、「目的地まで移動する」「モノを正確に掴む」などの目的を実行するために、自己位置と周辺地図を正確に把握する必要があります。

物流倉庫や製造現場で利用される搬送ロボットは、床面に設置した経路に従って進行する形式のものが以前から実用化されていました。SLAMを利用すると、搬送車は自分の位置を把握しながら移動することができます。

経路を床面に設置する必要がありませんので、工場内レイアウトを変更する際のコストを抑える事が可能です。また、自ら周辺状況を把握しながら進行しますので、障害物があった場合も外部からの誘導なしに回避することができます。

4. SLAMのメリット・デメリット

4-1. SLAMのメリット

地図情報が無い未知の環境下で、自己位置推定と地図作成を同時に行う事ができるのが、SLAM最大のメリットです。この最大のメリットが発揮されるシーンについて、例えばGNSSだけで自動運転しようとすることと比較して考えてみます。

GNSSだけに頼って自動運転しようとすると、道路脇にトラックが停車していてもそのまま突っ込んでしまいます。自分が持っている地図情報にトラックが存在していないからです。一方SLAMの場合、周囲の環境から得られる情報を基にリアルタイムで地図情報を更新していますので、障害物を回避しながら最適なルートを選択することが可能です。さらに、GNSSの場合ガード下やトンネルなどの衛星からの電波が受信できない場所では位置情報が取得できません。SLAMであれば、周辺状況から常に自己位置を推定していますので、継続して自動運転が可能です。

4-2. SLAMのデメリット

デメリットとして挙げられるのは、コストです。位置推定や地図作成を同時に行うには大量のデータを同時に処理する必要があります。必然的に高性能なハードウェアが要求され、機器が高価になります。また、SLAMシステムのアルゴリズムは非常に複雑です。様々なセンサーからの情報を処理しなければなりませんし、それぞれのセンサー情報には当然誤差が含まれていますので、誤差のある情報からより正確に自己位置を推定していくためのソフトウェア開発コストも膨大なものになります。

5. デメリットを超えた強み

一例として測量用途で使用される、地上型レーザースキャナーとSLAMスキャナーを比較してみたいと思います。
地上型スキャナーは三脚などで設置してから計測しますので、自己位置が厳密に定義できます。従って取得される地図情報はmmオーダーで正確です。一方SLAMスキャナーは自己位置を推定しながら地図情報を構築していきますので、精度の面で比較すると劣ってしまいます。

しかしながら、SLAMスキャナーは歩くだけでスキャンできるというのが大きなメリットです。地上型レーザーの様に手間のかかる設置作業が不要なのです。誤差はデメリットですが、地上型レーザーにはない強みが生きる用途にSLAMが活用されています。

このように、SLAMは移動体の「機械の眼」として、多くの用途において活用されるメリットを秘めているといえるのではないでしょうか。

株式会社小泉測機製作所

小泉測機製作所では、スウェーデンSATLAB社のSLAMスキャナーを取り扱いしています。
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【(著)株式会社小泉測機製作所 】