2次元物質の電荷配列現象に新たな機構「高次ネスティングベクトル」の関与を発見
~低次元物質の物性解明に道~

更新日:2023.05.09

ポイント

  • 分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy;MBE)法と原子置換(トポタクティック反応)法との独自な組み合わせにより、原子3個分の厚さしかない原子層2硫化バナジウム(VS2)薄膜を作製しました。
  • 原子層VS2では1次元的に電荷が配列していることを発見しました。
  • 従来とは異なる「高次ネスティングベクトル」によって電荷配列が生じることを提案する成果です。
  • いまだ謎が多い2次元物質における電荷密度波(Charge-density Wave;CDW)メカニズムの解明や原子層材料を用いたスイッチングナノデバイスの開発につながると期待されます。

グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドに代表される低次元の層状物質では、低温で「電荷密度波(CDW)」と呼ばれる電荷配列現象の起こることが知られていますが、どういうメカニズムで電荷が配列するのかは、多くの物質においていまだによく分かっていません。

東北大学 大学院理学研究科の川上 竜平 大学院生、菅原 克明 准教授、材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の佐藤 宇史 教授らの研究グループは、WPI-AIMRの岡 博文 助教、大学院理学研究科の福村 知昭 教授らと共同で、分子線エピタキシー(MBE)法と原子置換法を用いて2硫化バナジウム(VS2)の2次元シート(原子層薄膜)を作製し、その電子構造をマイクロARPES(Angle-resolved Photoemission Spectroscopy;ARPES)と走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy;STM)を用いて調べました。

その結果、原子層VS2は特殊なCDWが生じることで絶縁体となることを明らかにしました。さらにCDWの形成に、従来に比べてちょうど2倍の長さを持つ「高次ネスティングベクトル」が関与していることを突き止めました。今回の成果はいまだ謎が多い2次元物質におけるCDWメカニズムの解明へとつながるものです。

本研究成果は、科学雑誌「npj 2D materials and Applications」に2023年5月2日(現地時間)にオンライン掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)「独創的原理に基づく革新的光科学技術の創成」領域(河田 聡 研究総括)の「時間変調メタマテリアル非線形フォトニクスの基盤構築」(研究代表者:東北大学 大学院工学研究科 金森 義明 教授、課題ID JPMJCR2102)で行われました。また試料の作製と測定での装置利用は、物質・デバイス領域共同研究拠点展開共同研究「ナノスケール磁性体のスピンダイナミクスに関する研究」(課題番号 JP20224043)の枠組みを活用しました。

<プレスリリース資料>