電気的な偏りのない層状結晶にひずみを加えて面内に電荷の偏りと光起電力効果を実現
~ひずみによる2次元物質の機能開拓へ新しい可能性~

更新日:2022.11.25

ポイント

  • 電気分極を持たない層状結晶にひずみを加えることにより、面内に電気分極とそれを反映した巨大な光起電力効果が発現することを発見した。
  • 観測された光起電力効果がひずみの大きさに伴って増大することや量子力学的な機構によって説明できることを明らかにした。
  • ひずみの印加手法の改善や、他の類似のファンデルワールス結晶への適用により、次世代の太陽電池に向けた、新物質・新機能の開拓につながると期待される。
図. MoS2結晶への一軸性歪み印加による分極とバルク光起電力効果の発現。歪みを印加してい ない試料では印加電圧なしの状況下での光電流は観測されていないが、歪みを印加した試料では印加電圧なしの状況下で有限の光電流が観測されている。
図. MoS2結晶への一軸性歪み印加による分極とバルク光起電力効果の発現。
歪みを印加してい ない試料では印加電圧なしの状況下での光電流は観測されていないが、歪みを印加した試料では印加電圧なしの状況下で有限の光電流が観測されている。

概要

東京大学 大学院工学系研究科のドン ユ 大学院生と同研究科の岩佐 義宏 教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)、東京大学 物性研究所の井手上 敏也 准教授、理化学研究所 創発物性科学研究センターのヤン ミンミン 研究員(研究当時、現所属:Department of Physics,The University of Warwick)らの研究グループは、東京大学 大学院工学系研究科の森本 高裕 准教授、長谷川 達生 教授、理化学研究所 創発物性科学研究センターの小川 直毅 チームリーダーらのグループと共同で、正三角形の対称性を持つファンデルワールス結晶である二硫化モリブデン(MoS2)をひずませることで、面内に電気分極とそれを反映した巨大な光起電力効果が生じることを発見した。

層間がファンデルワールス力によって結合したファンデルワールス結晶は、薄膜化や界面の作製、柔軟性を生かした変形などによって、元の物質とは全く異なる物性や機能性を実現することができ、近年大きな注目を集めている。中でも、ひずみを印加したり曲げたりすることによって変形したファンデルワールス結晶では、元の結晶とは異なる対称性が実現でき、それを反映した新奇物性の発現や電気・光応答の巨大化が期待される。本研究では、正三角形の対称性を持ったファンデルワールス結晶が一軸性ひずみによって対称性が変化することに着目して、ひずみによって面内に電気分極を実現するとともに、分極に由来する光起電力効果(バルク光起電力効果)を観測することに成功した。さらに、観測される光電流の大きさがひずみの大きさに伴って増大することや、観測された光電流の振る舞いが電子の量子力学的な波束の重心位置が光照射によって空間的に変位するという機構によって説明できることを見いだした。

本研究成果は、ひずみによるファンデルワールス結晶の対称性制御を基軸とする機能性開拓という新たな可能性を示した成果であり、さまざまな2次元層状物質のひずみによる機能性開拓をさらに推進する契機となるだけでなく、電気分極とバルク光起電力効果との関係性に重要な知見を与えるものと期待される。

本研究成果は、2022年11月21日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Nanotechnology」オンライン版に掲載された。

<プレスリリース資料>