非磁性/強磁性半導体ヘテロ接合において磁場の向きを変えると符号が変わる巨大な磁気抵抗効果を発見
~物質中の「対称性の破れ」による特異な電子伝導現象、次世代量子デバイスの可能性~

更新日:2022.11.11

ポイント

  • 非磁性半導体と強磁性半導体からなる2層のヘテロ接合(異なる物質を積層した構造)を作製し、新しい電子伝導現象を発見しました。一般に物質に磁場を印加したときの電気抵抗の変化(磁気抵抗効果)は磁場の向きを反転させても全く同じ(偶関数)になりますが、本研究では磁場の向きを反転させると電気抵抗変化の符号が変わる奇関数の磁気抵抗効果を見いだし、史上最も大きい27パーセントもの変化率を示す巨大な奇関数磁気抵抗効果を観測しました。
  • 本研究で発見された従来よりも10倍以上大きい奇関数磁気抵抗効果は、非磁性半導体薄膜の端(側面)に電子が流れるチャネルが形成され、この伝導電子が非対称的な静電場(空間反転対称性の破れ)と隣接する強磁性半導体の磁化(時間反転対称性の破れ)を感じることによって生じることが分かりました。このヘテロ接合に電圧を印加し、空間反転対称性と時間反転対称性を変化させることによって、奇関数磁気抵抗効果を外部電場で制御できることも明らかにしました。
  • 本研究は、「対称性の破れ」が物質の性質や機能に与える効果を明らかにし、外場に対する巨大な応答現象(抵抗の大きな変化など)を半導体において実現したという点で大きな意義を持つとともに、高感度磁気センサーなど強磁性半導体を用いた次世代のスピントロニクスや量子デバイスの実現に新たな道筋を示したと言えます。

概要

東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻の瀧口 耕介 大学院生(研究当時)、Le Duc Anh(レ・デゥック・アイン) 准教授、白谷 治憲 大学院生および田中 雅明 教授の研究グループは、東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻の福澤 亮太 大学院生(研究当時)、東京大学 生産技術研究所の高橋 琢二 教授の研究グループ、福島工業高等専門学校の千葉 貴裕 講師のグループと共同で、全て半導体でできた非磁性半導体/強磁性半導体からなる2層ヘテロ接合を作製し、新しい電子伝導現象を発見しました。

通常の物質では磁場を印加したときの電気抵抗の変化(磁気抵抗効果)は磁場の向きを変えても全く同じですが、研究グループが作製した半導体ヘテロ構造では外部磁場の向きを反転させると電気抵抗が27パーセントも変化する巨大な奇関数磁気抵抗効果を発見しました。

この新しい奇関数磁気抵抗は、非磁性半導体層の側面(エッジ)に形成される一次元伝導チャネルにおいて発生し、①試料端(側面)の表面ポテンシャルによる「空間反転対称性の破れ」と②隣接する強磁性半導体からの磁気近接効果による「時間反転対称性の破れ」が同時に存在することに起因していることが判明しました。

この現象は、対称性の破れによる巨大電磁気応答がエレクトロニクスに整合性の良い半導体ヘテロ接合で現れたことに意義があり、高感度磁気センサーなど次世代のスピントロニクスや量子デバイスに応用可能と考えられます。

本研究成果は、2022年11月9日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されます。

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