光に対して安定なのに、光で分解できる材料を開発
~長く使えて環境にやさしい材料へ~
ポイント
- 従来の光分解性材料はその分解性のために、光の下で長時間利用できないという問題点があった。そこで、光に対する安定性と分解性を両立させた新しい材料の開発に取り組んだ。
- 新しい分解方法として、光と酸がそろった時のみ分解可能な高分子材料を開発することで、光に対して安定でありながらも、酸の存在下で光分解できる材料を実現した。
- 分解性プラスチック材料や光微細加工された機能性材料などが、身の回りでも長期間利用可能になるなど、環境的・産業的に有用な材料の創成に貢献すると考えられる。
光分解性材料は、人工的な光や自然光によって材料を分解可能であることから、環境調和型の材料として有望視されています。同時に光分解性材料は、局所的な分解を利用した材料微細加工など、産業的にも広く応用されてきました。その一方で、光分解性材料は光が当たると分解されてしまうため、材料を光の下で長時間利用することができません。この本質的な問題は、光分解性材料を身の回りで利用し続ける上での大きな制約になっていました。
東京大学 大学院総合文化研究科の寺尾 潤 教授、正井 宏 助教、ラッセル 豪 マーティン 大学院生らは今回、光が単独で作用し分解を引き起こすのではなく、光と酸を同時に作用させた時のみ材料を分解させる技術を開発しました。すなわち、酸を用いることで光分解や光微細加工が可能でありながらも、酸が存在しない状況では光に対する長期安定性を材料が持つという、従来の問題点を打開した新しい光分解性材料が実現しました。
本研究によって、光の下でも長期的に使用可能で、かつ使用者が意図したタイミングで光分解できるプラスチック材料など、環境的・産業的に有益な材料の創成に貢献すると考えられます。 本研究成果は、2022年8月9日の「Advanced Functional Materials」誌(オンライン版)に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「光安定材料への酸添加による協働的光分解技術の創成(JPMJPR21N8)」、科研費「プロトンと光を用いた高分子材料の反応性と機能性の自在制御(課題番号:JP21H00018)」、日本学術振興会、東京大学 光イノベーション基金、天田財団、野口遵研究助成金、矢崎財団、東電記念財団の支援を受けて実施されました。
<論文タイトル>
“Transient Photodegradability of Photostable Gel Induced by Simultaneous Treatment with Acid and UV Light for Phototuning of Optically Functional Materials”
DOI:10.1002/adfm.202205855
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
- 寺尾 潤(テラオ ジュン)
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授
E-mail:cteraog.ecc.u-tokyo.ac.jp - 正井 宏(マサイ ヒロシ)
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教
E-mail:cmasai.hg.ecc.u-tokyo.ac.jp
<JST事業に関すること>
- 嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:prestojst.go.jp
<報道担当>
- 科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp