ロボット実験×AI による燃料電池のものづくり研究開発法の革新
~粉体成膜プロセスインフォマティクスにより3万候補から 40 回で新しい最適解の発見に成功~

2022.2.9更新

東京大学大学院工学系研究科の長藤圭介准教授、永井鴻平(修士課程 2 年)、冨澤森生 (博士課程 3 年)らの研究グループは、燃料電池などのものづくりの核になる粉体膜乾燥プ ロセスを高速で最適化する手法を開発し、新しい加熱方法を発見しました。ロボット実験と AI を用いて粉体膜乾燥プロセスに対して実証したのは世界で初めてです。 粉体成膜は、「お好み焼き」や「もんじゃ焼き」と同様に、粉を液体に混ぜたインクを「加 熱して、乾かす」身近な方法です。しかし、複雑な現象のため、加熱温度や加熱時間などの膨 大なパラメータから最適な条件を探索するには、これまで人の勘・コツ・経験に依存してきま した。 本研究では、粉体成膜のうち粉体膜乾燥プロセスに着目し、人の作業に頼ることなく素早く 実験し、人知を超えうる新しい加熱方法が探索できることを実証しました。材料やプロセスの 開発競争が世界で激化している中、匠の技の伝承の問題を解決しつつ、日本のものづくりの力 を飛躍的に伸ばす重要なツールとなります。本成果は、2022 年 2 月 8 日(英国標準時)に英国科学誌「Scientific Reports」にオンライ ン掲載されます。

ポイント
・ロボット実験および機械学習(AI)を用いて、粉体膜乾燥プロセスにおけるひび割れを最 小とする加熱温度パターンを、約 3 万(85)通りの候補からわずか 40 回の試行での発見に 成功しました。

・網羅的回数の 0.12%の試行回数で最適な加熱温度パターンを発見しただけでなく、1 段階目 の加熱で表面に適度な膜を張り、2 段階目の加熱で内部の粒子の再配列を許しながら徐々に 溶媒が蒸発する「2 段階加熱」という斬新な加熱方法を見いだしました。

・燃料電池や蓄電池など、日本が先行し続けるべき粉体成膜プロセス開発の競争力強化につな がります。

<研究の背景>
材料およびプロセスの開発は、カーボンニュートラル社会に欠かせない FCV(燃料電池 車)や EV(電気自動車)の心臓部である燃料電池・蓄電池をはじめとした日本のものづくり を支えるために重要です。たとえば燃料電池は、イオンを良く流すカーボン材料そのものと最 適な構造を作り出す粉体成膜プロセスが両立して初めて性能を発揮します。しかし、そのプロ セスの条件の数は膨大で、効率的に最適な答えを探す方法が求められています。

<研究内容>
本研究では、粉体成膜のうち粉体膜乾燥プロセスに着目し、ロボット実験と機械学習 (AI)を用いて最適な答えを発見する方法の実証を行いました(図 1)。

図 1 (a)人による問題設定。(b)実験に基づく粉体膜乾燥プロセスの最適化のループ、①実験 →②機械学習モデルの更新→③機械学習モデルによる予測・実験提案→(以下、①→②→③の 繰り返し)と探索する。(c)人による知識化。

AI を用いて最適化 する手法の一つにベイズ最適化がありますが、この方法をロボット実験を用いて粉体成膜プロ セスに適用したのは世界で初めてです。加熱温度 8 ステップと加熱時間 5 ステップ、すなわ ち約 3 万(85)通りの加熱履歴の候補から、ひび割れ率を最小にする最適な答えを見つけるた めのロボット実験装置および機械学習システムを構築しました。乾燥膜乾燥プロセスでは、ほ とんどが 40~50%程度のひび割れ率になる中で、ランダムな条件で実験する初期データ取得 試行 30 回と、1 回の実験の度にかしこくなる学習試行 10 回の計 40 回の試行により、ひび割 れ率が 3%以下になる加熱温度パターンを発見しました。全 40 個の加熱温度パターンとひび 割れ率の関係を表す学習モデルにより、2 段階加熱という斬新な答えが最適であることも示さ れました(図 2)。

図 2 計 40 回の(a)加熱温度パターンと(b)ひび割れ率の変遷。最初の 30 回はランダムなパラ メータでの試行結果(ひび割れ率は主に 40~50%)。その結果をもとに、後の 10 回は、毎回 学習モデルを更新しながら実験し、最終的にひび割れ率 3%以下になる加熱温度パラメータを 割り出す。

通常の 1 段階加熱では、膜全体の流動に伴って大きなひび割れが発生する 一方、2 段階加熱では、1 段階目の加熱で表面に適度な膜を張り、2 段階目の加熱で内部の粒 子の再配列を許しながら溶媒が蒸発するというメカニズムとして妥当であると考えられます (図 3)。

図 3 2 段階加熱がひび割れ率最小につながった加熱温度パターンの考察。(a)通常の 1 段階加 熱では膜全体の流動に伴って大きなひび割れが発生する。(b) 2 段階加熱では、表面に適度な 乾燥膜ができ、内部の再配列を許しながら徐々に溶媒が乾燥する。

このように、人の作業では不可能だった探索範囲で新しい加熱方法がデータ駆動で 発見され、人の勘・コツ・経験に基づいた仮説駆動の考察により、「新しい答え」だけでな く、メカニズムも含めた「新しい知識」を見つける可能性が示されたことになります。

<社会的意義・今後の展開>
ロボットおよび AI を用いた実験、すなわちデータ駆動型の研究手法により、少ない試行回 数で最適な答えを発見しただけでなく、その答えは、従来行われてきた、人の仮説に基づく実 験、すなわち仮説駆動型の研究手法だけではたどり着きにくい斬新なものであったと示された ことは、今後期待される新しい研究手法のきっかけとなります。本成果は、プロセス開発に情 報科学を取り入れた「プロセスインフォマティクス」の実践として、今後、ますます重要にな る材料開発およびプロセス開発の高効率化、および人のヒラメキを高頻度に誘発する豊かな研 究開発現場の実現に貢献します。


※記事の無断転用を禁じます。