世界最高出力250Jの産業用パルスレーザー装置を開発

更新日:2021.6.28

NEDOが進める「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」プロジェクトにおいて、このたび浜松ホトニクス(株)はパルスエネルギーをLD励起では世界最高出力の250J(ジュール)とした産業用パルスレーザー装置を開発しました。レーザー媒質に光エネルギーを蓄える能力の向上や、ビームの高品質化などにより、従来の産業用パルスレーザー装置と比べ同程度のサイズながら2倍以上のエネルギー増幅能力を実現しました。

本装置による加工データを取得・集約することで、データベースの構築やAIを用いた加工条件の最適化が可能になります。これによりレーザー加工の効率化だけでなく、医療・エネルギー分野などでの応用開拓も期待されます。

1.概要

ものづくり現場では将来、あらゆるモノがインターネットでつながるIoT(Internet of Things)や人工知能(AI)の活用により、クラウドを通じた生産設備の連携と自動化・無人化がさらに進むと考えられます。その中でレーザーは加工などの条件をデジタル制御しやすいため、将来のものづくりにおける最重要ツールの一つとして期待されています。

加工用レーザーは一定の強さのレーザー光を連続して出力するCW(Continuous Wave)レーザーと、レーザー光を短い時間間隔で繰り返し出力するパルスレーザーに分けられます。CWレーザーは溶接や切断などの熱処理に利用できるためレーザー加工の主流となっている一方、パルスレーザーはレーザーピーニングなどでの利用はあるものの、これまで高強度の半導体レーザー(LD)や大型のレーザー媒質がなく高出力のレーザー装置が開発されていなかったため、最適な照射時間やエネルギーなどの加工条件を探索するシステムが確立されておらず、応用開拓が進んでいませんでした。

このような中、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」において浜松ホトニクス株式会社は、高出力パルスレーザー装置の開発を進めてきました。2019年には浜松ホトニクス(株)製のLDモジュール4台とセラミックスのレーザー媒質6枚を搭載したレーザー増幅器2台により、117J(ジュール)のパルスエネルギーを出力する産業用パルスレーザー装置を開発しています。

その上でさらなる高出力化に向けた開発を行い、今回パルスエネルギーをLD励起では世界最高出力の250Jとした産業用パルスレーザー装置の開発に成功しました。同時に、本装置を用いてレーザー技術開発の重要なマイルストーンとなる1kJ級レーザーの設計に必要な基本的な条件評価を行い、その実現可能性を確認しました。

浜松ホトニクス(株)は6月30日(水)から7月2日(金)までパシフィコ横浜(横浜市西区)で開催される国内最大級の光技術展示会「OPIE’21」のNEDOブース内で本成果を公表し、併せてレーザー加工サンプルの展示なども行います。

2.今回の成果

【1】LD励起では世界最高となる250Jを出力する産業用パルスレーザー装置

本装置はレーザー媒質として最適化した世界最大面積のセラミックス10枚を搭載することで、光エネルギーの蓄積能力を従来の約2倍に向上させました。また、増幅器の設計の見直しにも取り組み、新たに開発した小型のLDモジュール8台を照射角度や位置などを工夫して搭載し、レーザー媒質を励起する効率を高めることで励起能力を従来の約2倍に向上させました。さらに、浜松ホトニクス(株)独自の高出力レーザー技術によって装置全体の光学設計を最適化することで、集光性や照射面に対する出力分布の均一性といったビームの高品質化も実現しました。これらにより、従来の産業用パルスレーザー装置と同程度のサイズながらエネルギーの増幅能力を2倍以上の250Jとした、LD励起では世界最高のパルスエネルギーを出力する産業用パルスレーザー装置を実現しました。

本装置による加工データを取得・集約することで、データベースの構築やAIを用いた加工条件の最適化が可能となります。これにより、レーザー加工の効率化が進むと期待されます。

【2】1kJを出力する産業用パルスレーザー装置の実現可能性を確認

本装置を用いてレーザー技術開発の重要なマイルストーンとなる1kJ級レーザーの設計に必要な基本的な条件の評価を行いました。その結果、現在の性能を維持したままビームのサイズを4倍に拡大することで、1kJ級レーザーを実現できる可能性を確認しました。今後1kJ級レーザーを実現できれば、レーザー加工技術の発展に加え、医療やエネルギー、新材料、基礎科学といった新たな分野でのレーザーの応用開拓も期待されます。