電子回路を簡易に立体成形する技術を開発
【ポイント】
- 回路を形成した樹脂シートの成形時に、部分的に変形を抑制できる「熱投影成形法」を開発
- 成形時に起こるチップ部品の破損や配線の寸法変化を回避し、回路の機能を損なわずに立体化
- 車載パネルやコントローラーなどに応用可能な立体的な電子回路を高速・高効率に製造
1.概要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)人間拡張研究センター【研究センター長 持丸 正明】兼 センシングシステム研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】の金澤 周介 研究員らは、平面状の樹脂シートに作製した電子回路を破損させず、簡単かつ高速に立体成形できる技術を開発した。
車載パネルなどのように、立体曲面に電子回路が組み込まれた構造物は、立体的に成形した樹脂に部品や配線を後から取り付けることで製造されているが、樹脂の成形工程と回路の取り付け工程が分かれていることが生産速度の向上や低コスト化を妨げていた。今回開発した熱投影成形法は、回路の立体化と樹脂の成形加工を同時に行うことを可能にする技術で、平たんな樹脂のシートに形成した電子回路を壊さずに立体成形できる。成形時にシートに加わる熱を部分的に遮断して、変形を起こさない領域を形成し、そこに実装された半導体チップの破損や配線の変形を回避する。回路の立体化と樹脂の成形加工を同時に行えるため、立体的な電子回路の量産性の向上や回路が埋設されたパネル製品の製造に有効な技術であり、幅広い分野への応用が期待できる。
今回開発した技術で作製した立体回路は2020年12月9日~11日に東京ビッグサイト(東京都江東区)にて行われる「MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2021」の会場で一般に公開される。
2.開発の社会的背景
人々が生活する現実空間(フィジカル空間)とコンピューターの中の仮想空間(サイバー空間)を強固に連携させ、社会問題の解決や新規事業の創出につなげる取り組みが、Society 5.0やサイバーフィジカルシステムとして提唱され、注目されている。現実空間に埋設された表示デバイスやセンサーを幅広く創り出すためには、デバイスの小型化や薄型化だけでなく、エルゴノミクスデザインのような立体形状への対応が求められる。車載パネル、ゲームコントローラーやPC操作用のマウスのように、立体曲面に電子回路が組み込まれた既存製品は、立体的に成形した樹脂に部品や配線を後から取り付けて製造されている。しかし、立体構造上に配線や回路を形成することの困難さが、生産速度の向上や低コスト化を制限している。この課題を解決するには平面状に作製した回路を立体化する技術が有効であるが、立体化する時に回路が破損してしまうため実現されていなかった。よって電子回路の機能を損なわず高速に立体化できる新たな技術が求められていた。
3.研究の経緯
産総研 人間拡張研究センターでは、人に寄り添い人の能力を高めるシステムの研究開発を行っており、産総研 センシングシステム研究センターと連携して、フレキシブルデバイスなど人が装着できたり、人の活動環境と調和できたりするデバイスの開発に取り組んでいる。今回、装着性や環境調和性に優れる立体的なデバイス創出の基盤技術として、電子回路の立体成形技術の開発に取り組んだ。
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産業技術総合研究所